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若い世代とともに未来の医療を考える。チーム早慶城、神戸で診断と創薬の現場へ
2026.05.26

順天堂大学免疫治療研究センターでは、免疫寛容プロジェクトの取り組みを多くの人々に知っていただくため、ウェブサイトや市民公開講座などを通じてさまざまな情報を発信しています。とりわけ私たちが大切にしていることは、研究を「患者さんのために」行うだけでなく、「患者さんとともに」考え、社会に届けていくという姿勢です。研究室の中で生まれた技術は、当事者である患者さんとその家族、医療従事者、企業などがそれぞれの立場から関わることで、広く社会に実装され、社会的価値を発揮します。そして、そこに若い世代が関与することでその価値がさらに高まり、未来へ大きく広がると信じています。私たちはこれまでに何度もその若者の力を実感してきましたが、今回の神戸訪問においても、その可能性をあらためて実感する機会となりました。
大阪・関西万博から9か月

3月19日、センターが活動を支援する高校生チーム、早慶城*1の4人が、JB-101の研究・開発における共創パートナー、JCRファーマ株式会社*2(以下、JCRファーマ)およびシスメックス株式会社*3(以下、シスメックス)の施設訪問のため、兵庫県神戸市を訪れました。「次は神戸で」と、4人が大阪・関西万博で副センター長の内田浩一郎先生と約束を交わしてから約9か月。その言葉どおり、チーム早慶城の神戸訪問が実現しました。私たちが今回、早慶城の訪問先として創薬と診断の現場を選んだのは、医療が研究室や病院の中だけで完結するものではないということ、そして、患者さんの薬を創り、患者さんの診断を支え、患者さんの声を受け止める人々と若い世代が直に接することで、医療の可能性が広がると考えたからです。そしてこの日が選ばれたのは、チームリーダーの本田さんが、今年の第25回再生医療学会の中高生のためのセッション「作文コース」で銀賞を受賞し、その表彰式が翌20日に予定されていたためでした。
「新幹線で新神戸駅に到着して、プラットフォームでSysmex社の広告を見かけたあたりから緊張していました」(河口さん)
「大阪万博の際にお話を伺って以来、ずっと願い続けていたチーム早慶城でのJCRファーマ社とシスメックス社訪問がついに実現し、胸がいっぱいになりました。今年は神戸で開催された日本再生医療学会の作文コースで受賞し、会社見学と学会への参加という夢が叶い、感無量でした」(本田さん)
基礎研究の現場と最新の臨床技術を体験

神戸に到着して4人が最初に向かったJCRファーマの研究所では、会社の歴史や概要の説明を受けた後、普段はなかなか立ち入れない基礎研究の現場見学を行いました。見学に際し白衣に袖を通した4人は、廊下を進み始めた矢先から、ドアの「P2」という文字や「バイオハザード」という非日常的なフレーズに知的好奇心を刺激されていました。研究室の中では、変わった形状のフラスコや細胞培養ツールを実際に手に取り、研究員に細胞の数え方のコツを教わったり、最終的には肉眼での確認が最も確実であるという現状を知るなど、現場を肌で感じる貴重な体験となりました。
「細胞を一つひとつ手作業で数える工程を拝見し、研究を支える丁寧で地道な作業の重みを深く実感しました」(本田さん)
4人が次に向かったシスメックスの研究所では、同社と川崎重工業株式会社が共同で出資し設立した株式会社メディカロイドが開発した国産の手術支援ロボット「hinotori™ サージカルロボットシステム(以下、hinotori™)」の操作を実際に体験することができました。手術支援ロボットの分野では「ダヴィンチ」が世界的に圧倒的なシェアを持っていますが、2020年に国内で承認・販売が開始された「hinotori™」は、日本発のシステムとしての操作性やコスト面での優位性等でアジアを中心に普及が拡大しています。4人は順番に「hinotori™」を操作し、ゲームのコントローラーのようでありながら、わずかな手の動きがロボットによって再現され、それが実際の人の手以上に安定されるという医療と工学技術が融合した高度なシステムを体感しました。
「先進医療の研究現場を拝見し、未来を切り拓く技術への期待とその裏にある努力の積み重ねを実感しました。私は情報系に興味を持っているのですが、『hinotori™』を触らせていただいた際にこのような方面からであれば医療にも貢献できると気づき、将来の選択肢が広がりました」(北川さん)



プレゼンテーションの再演
見学を終えてシスメックスの研究開発拠点「テクノパーク」に移動した4人は、昨年の再生医療学会で金賞を受賞し、大阪・関西万博でも披露したプレゼンテーションを再演しました。会場となった役員会議室には、シスメックス、JCRファーマ、AlliedCel株式会社の3社から十数名が出席し、オンライン配信でも約40名の聴講がありました。単に新しい治療法のアイデアを語るのではなく、患者さんが何を望み、どのように医療と向き合うのかを考え、今後の目標と10年後の未来像までを描いた30分間のプレゼンテーションは、終了後、多くの参加者から大きな拍手を受けました。

発表後の質疑応答では、4人がなぜ集まっているのかということ、4人がどのようにチーム内で役割分担をしているのかなど、秀逸なアイデアを生み出す4人の絆やチームワークに関する質問が相次ぎました。この場であらためてチームの絆について考えることになった4人は、本田さんの「病気を治したい」という気持ちを求心力に結成されたこと、そしてその結束力については、「運命(河口さん)」「不思議な力(北川さん)」「尊敬(岡本さん)」といったキーワードでそれぞれが表現し、お互いの価値観への理解と信頼を深める良い機会となりました。
他にも、患者さんがあえて病気を「治さない」という選択をする可能性に着目し、自己決定権を尊重した医療倫理の視点についても高い評価が寄せられました。発表では、治療という善意を一方的に押し付けるのではなく、患者さんに多様な治療の選択肢を提示すること、そして、その意思決定を支え、十分な理解を尽くすことの重要性が丁寧に示され、医療技術の進歩と常に並行して考えるべき要素が盛り込まれた内容に、あらためてその完成度の高さがうかがえました。
「あらゆる技術はルールよりも速く進化していきます。そのため、私たちはどうしても『後追い』を強いられてしまいます。しかし、だからこそ、社会をつくる私たち自身も常に学び続け、変化していく必要があると感じました」(岡本さん)
診断という新たな視点

さまざまな観点から構成されたプレゼンテーションでしたが、発表後に行われた座談会では、新たな気づきもありました。シスメックスの辻本執行役員・次世代医療事業開発室長から紹介された「診断」という視点について、4人は口をそろえて「そこは考えたことがなかった」と語り、まさに目からうろこの様子でした。すばらしい特効薬ができたとしても、その病気が何の病であるか「診断」されなければ患者さんにその薬が処方されることはありません。薬があっても使えることに気がつけないというケースは日常的に存在しています。このように、正しい診断が下りないがため、治療法があるのに苦しい闘病の日々を送っている患者さんのためにも、「診断」という技術は創薬の傍らになくてはならない手段の一つです。直接患者さんに対応しない企業でありながら、生涯を通して患者さんの生活の質に直結する価値を追求するシスメックスの視点に、今回4人は強く印象づけられたようでした。
「『治療と診断はセット』という言葉が、私には気付けなかった視点で心に残りました」(北川さん)
「治療に至るまでには『診断』という大きな壁があること、また正しい診断が受けられず困難に直面している人々が数多く存在することを知り、医療技術の持つ希望と責任の重さ、そしてそれが人の命と深く結びついていることを改めて実感しました」(岡本さん)
新しい治療法を研究する私たちにとっても、その治療を本当に必要としている患者さんに届けるためには、診断、検査、モニタリングは必要不可欠な技術です。
若い世代から学ぶこと

「次に繋がったね」
帰路の途中、走り出して間もない車の中で本田さんが発した言葉です。座談会では、基礎研究の拠点にいる研究員の方から、今回のアイデアを高めるために一緒にディスカッションをしてブラッシュアップしたいという提案がありました。アイデアは、一人で考えるよりも、より多くの、専門性の高い人々と共有し、交流を深めることで相乗的に広がっていきます。今回、着想が実現可能な未来へとつながっていくプロセスを経験したことで、行動を起こすことの重要性を4人はあらためて認識する契機となったのではないでしょうか。これは研究の世界だけでなく、さまざまな価値観が混在するこの世界を生きていく上で欠かすことのできない視点です。
「AIの時代であっても、実際に足を運び、人と向き合い、体温を感じ、心が通い合う時間こそが、これからますます大切になっていくと強く感じました。今回の素晴らしい体験の一つひとつに、心から感謝しています」(本田さん)
「今回の訪問を通して、我々早慶城の未来がさらに広がった、そのような気がしています。今までの経験、今回の経験、そしてこれからの経験、これらを活かして来年の再生医療学会中高生のセッションアドバンストコースに向け全力で準備をしていこうと思います」(河口さん)
本田さんたちの次の目標は来年3月開催予定の第26回再生医療学会の中高生のためのセッションで再び金賞を受賞することです。この4月から高校3年生となり、エントリーできる最後のチャンスとなるこの大会で、本田さんがこれまで繋ぎ、繋がりつづけてきたコンパッションの集大成が一つ、ここに完結します。チーム早慶城の4人や、彼らを応援する人々の想いが一つの形となり、それは来春から大学生となり別々の道を歩む4人の一つの確かな基盤となるでしょう。そして私たちも、医療や研究が専門家だけのものではないこと、患者さんや若い世代とともに考え、育てていくものにこそ、私たちが目指すものがあることを今回あらためて彼らに教えてもらいました。
免疫治療研究センターでは、肝疾患の患者さんやそのご家族、そして将来医療関係者を志す学生さんに向けたアウトリーチ活動を展開しています。免疫寛容プロジェクトや免疫学、臓器移植に関する理解を一層広げるため、みなさんにとってよりわかりやすく、より近い場所で、世の中に貢献するための活動に取り組んでいきたいと思っています。

*1:チーム早慶城とは、中学校の課題研究をきっかけにJB-101に関心を持った本田伊紗也さん(当時、東京農業大学第一高校中等部3年、現在、早稲田大学高等学院3年)を中心に結成されたインタースクールチームの名称です。メンバーは、本田さんの小学校時代の同級生である北川和歩さん(海城高等学校3年)、塾時代の友人である岡本憲眞さん(慶應義塾志木高等学校3年)、そして高校の同級生である河口丈一郎さん(早稲田大学高等学院3年)の4人で構成されています。昨年3月に開催された第24回再生医療学会総会の中高生向けセッション「アドバンストコース」へのエントリーを目的に結成されたチーム早慶城は、本学会で見事金賞を受賞。昨年6月には大阪・関西万博で発表の機会にも恵まれました。現在も、それぞれの異なる興味や関心を追求・共有しながら、知的鍛錬を積み重ねています。
*2:JCRファーマ株式会社は、希少疾病を中心に治療薬の研究・開発・製造を一貫して手がける研究開発型のバイオ医薬品企業です。創業以来培ってきたバイオテクノロジーを基に、アンメット・メディカル・ニーズ(まだ有効な治療法が確立されていない病気)に応えることを使命に掲げ、独自の基盤技術を強みに新薬開発に取り組んでいます。2021年には、同社が独自に開発した血液脳関門通過技術を適用した医薬品について日本で製造販売承認を取得し、現在も世界に向けて革新的な治療薬の創出と社会への貢献を続けています。
*3:シスメックス株式会社は、血液検査をはじめとする検体検査分野において世界トップクラスのシェアを誇る、検査機器・試薬メーカーです。特に血球計数(ヘマトロジー)分野ではグローバルシェア50%以上を占め、その技術は世界中の医療現場で広く活用されています。さらに、検査機器、試薬、ソフトウェア、サービスを一体として提供することで、病気の早期発見や診断精度の向上に貢献し、私たちの健康を支える重要な存在となっています。
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