肝移植やJB-101について学校のみんなに伝えたい!中学生が免疫治療研究センターを訪問
2023.09.01
順天堂大学免疫治療研究センターでは、免疫寛容プロジェクトの取り組みを広く知っていただくため、ウェブサイトなどでさまざまな情報を発信しています。その情報を目にして誘導型抑制性T細胞(以下、JB-101)による治療に興味を持ったという中学生・本田伊紗也(イザヤ)さん(東京農業大学第一高校中等部3年)が、夏休み期間中の8月7日(月)、免疫治療研究センターを訪問し、内田浩一郎副センター長の説明や製造施設見学を通して、プロジェクトへの理解を深めました。
今回の訪問のきっかけになったのは、本田さんが内田先生に送った1通のメールでした。糖原病Ⅲ型(肝筋型)の患者でもある本田さんは、現在、生体肝移植をテーマに学校の課題研究を進めています。自ら調べ学習をする中で、移植後に免疫抑制剤を使わない新しい治療法として、JB-101による治療の治験が進んでいることを知り、サイトの記事や動画を見て疑問に思ったことをまとめて内田先生にメールを送りました。
そのメールを読んだ時のことを内田先生は「私たちの研究にこんなに興味を持ってくれる人がいる、ということがとてもうれしかったです。臓器移植は、やはり患者さんにとって怖いこと、避けたいことですが、中学生の本田さんが『いつか受けるかもしれない治療』として生体肝移植に興味を持ち、積極的に調べようとしている。その勇気が素晴らしいと思いましたし、せっかく興味を持ってくれたのだから、彼のためにぜひ何かしたいと思いました」と振り返ります。内田先生は、本田さんの質問にメールで返信するだけでなく「よかったらプロジェクトの現場を見てみませんか?」と声を掛け、センターへの訪問が実現しました。
疑問に答えるのは各分野のスペシャリスト
当日は、本田さんの疑問に答えようと、内田先生をはじめ、免疫寛容プロジェクトの最前線に立つメンバーが集まり、それぞれの専門分野の説明を担当しました。はじめに内田先生が、臓器移植と免疫抑制剤を取り巻く状況や免疫寛容について説明し、「私たちのプロジェクトでは、移植を受ける患者さんとドナーの方のリンパ球を使って、ドナーの臓器をいじめない特殊なリンパ球を作り、それを患者さんに投与して拒絶反応だけを防ぐ。これが長期間続くような研究をしています。今は、この細胞治療を『再生医療等製品』として国に承認申請するために、投与すると体の中で何が起き、どういう状態に導くのか、効いている期間はどのくらいか、どんな人に効きそうなのか、といったことを詳しく調べる治験を行っているところです」と分かりやすく解説しました。
また、治験には、臓器移植を行う外科医だけでなく、内科医、ソーシャルワーカー、薬剤師、治験コーディネーターなど、さまざまな職種が関わっていることを伝え、薬学の専門家で臨床開発を担当する株式会社JUNTEN BIOの豊永達則さんと内田菜穂子さんにバトンタッチ。豊永さんと内田さんは、現在使われている免疫抑制剤の種類を紹介しながら、主免疫抑制剤の副作用を抑えるために3種類の薬を併用していること、拒絶反応と副作用は天秤の関係にあり、医師と患者が相談して慎重に投与量を調整する必要があることなどを説明しました。
さらに、本田さんから質問があった治験のタイムラインについては、治験の実施を担当している広田沙織さんと前原由依さんが担当し、これまで国内の4施設で8人の生体肝移植患者に製品が投与されたこと、今後は対象を生体腎移植患者にも広げ、海外での治験も準備していること、将来的にはすでに移植を終えた晩期肝移植や脳死移植の患者にも使える細胞製剤の製造方法を検討していることなどを説明しました。また、この治療の普及のため、拒絶反応のシグナルをキャッチする免疫モニタリング法の開発を進め、免疫抑制剤を安全に減量、中断するための指標づくりにも取り組んでいることを紹介しました。
また、本田さんには、細胞の処理や培養が行われる細胞加工施設で、JB-101を製造するアイソレータでの作業風景を見学してもらいました。生きた細胞を使っているため、徹底した衛生管理やセキュリティ対策が取られていることや、アイソレータでの作業の難しさ、できるだけ新しく品質の良い細胞を患者さんに届けるために夜通しで作業を行う担当者の苦労にも触れ、現場の雰囲気を肌で感じていました。
細胞加工施設を見学する本田さんと、スケジュールや仕組みなど詳細を説明する目島さん
これまで生体肝移植や移植医療について自主的に学んできた本田さんは、専門的な内容を交えた説明もしっかり理解し、うなずいたりメモを取ったりしながら真剣に耳を傾けていました。さらに、なぜ日本では脳死移植が少ないのかなどについて質問し、理解を深めていました。
理解が深まり「研究発表の論文を書くのが楽しみ」
訪問を終えた本田さんは、「研究の様子を自分の目で見られたことが、一番印象に残っています。インターネットで調べるのと、実際に見るのとでは大違いで、今日の経験は今後の自分の人生に生きると思います。研究発表では、生体肝移植やJB-101について、そして日本の再生医療が身近なところまで来ていることを伝えたいです」と充実感でいっぱいの表情で話し、「研究発表の論文を書くのが楽しみになりました。良い発表ができるように頑張ります」と笑顔を見せてくれました。その言葉を聞いて、内田先生も「難しいことをどう分かりやすく伝えるかには、私たちも苦心しているので、本田さんがまとめる研究発表が、幅広い世代への伝え方の参考になるかもしれないですね」と期待を寄せていました。
免疫治療研究センターでは、肝疾患の患者さんやご家族、さらに将来医療関係者を志す学生に向けたアウトリーチ活動を展開しています。今年3月、東京肝臓友の会と連携して開催した市民公開講座では、患者さん、医学生、専門家のトークイベントも企画し、患者さんやご家族により近い場所で情報発信を行いました。免疫寛容プロジェクトや免疫学、臓器移植に関する理解を一層広げるため、今後もさまざまな形で情報発信に取り組んでいきます。
関連する記事