国内最大症例数を誇る京大病院が若年患者さんへのJB-101治験を実施

2023.01.04

2022年9月、京都大学1例目となる免疫寛容プロジェクトの医師主導治験が京都大学医学部附属病院で実施されました。国内最大の肝移植実績を誇る同院での治験の様子や免疫寛容の未来について、肝胆膵・移植外科の波多野悦朗先生、伊藤孝司先生、影山詔一先生に話を伺いました。

京都大学医学部附属病院が免疫寛容プロジェクトに参加された経緯を教えていただけますか?

波多野 現在、当院での肝移植の症例数は2,000例を超え、国内最大数になります。実は1994年に私が大学院に入学したとき、すでに教室のテーマに「免疫寛容」があったのですが、その後なかなか研究が進まない状況でした。そんな折、発表されたのが北海道大学・藤堂省先生のご研究成果です。そこで私は2021年4月の現職着任後すぐに、以前から知己をいただいていた東京女子医科大学の江川裕人先生に面会し、「ぜひ治験に参加させてほしい」とお願いしました。免疫寛容の治験に参加するのは、当科の歴史から考えても画期的なこと。伊藤先生や影山先生からも「ぜひやりましょう!」という力強い言葉がありました。

貴院では小児患者さんの移植手術の実績が多いとお聞きしております。小児・若年の患者さんが免疫抑制剤の投与を中止できるメリットをどのようにお考えですか?

伊藤 当院では1,000例を超える小児患者さんの症例がありますが、約1割の方が免疫抑制剤を中止できています。ただ、一度は中止できても途中で肝臓の繊維化が進み、再開せざるを得ない患者さんもおられます。JB-101の細胞治療は患者さんご自身のリンパ球が免疫寛容をもたらすため、このような事例を減らすことができるのではないかと期待しています。また、思春期になられた患者さんがご自身の病気のことをよく知らずに薬をやめてしまい、拒絶反応が起きたり、肝機能が再び悪化する事例もあります。肝移植後は健常人と変わりなく過ごせますので、「なぜ自分だけが?」と考えられるのでしょう。若年世代特有の悩みですが、これが今、大きな問題となっています。

1990年に国内2例目の生体肝移植手術を実施した臓器移植のパイオニア・京都大学医学部附属病院。

今回の治験の患者さんについて教えていただけますか?

伊藤 20代のアルコール性肝硬変の男性です。当院の消化器内科に来院され、肝臓の様子を2年間見守りましたが機能が改善せず、本治験への参加を希望されました。9月末に手術を受け、11月中旬に退院することができました。肝機能はすでに正常に戻っています。

治験で苦労された点はありますか?

影山 通常の移植手術にはないアフェレーシスが加わるため、私たち移植チームとアフェレーシス担当3名、CRCチーム3名で何度も打ち合わせをしました。事前のシミュレーションで誰が何をすべきか密に確認できたので、本番ではスムーズでした。京大のCRCチームは非常にクオリティが高く、見落としがないようつぶさに確認してくれます。まさに京大の底力を感じました。また、治験製品を運んでくださる輸送業者の方々にも随分協力していただきました。

JB-101の製品化にあたり、現状考えられる課題は?

伊藤 臓器移植後に免疫抑制剤を飲んでいると身体障害者1級に認定されるのですが、中止した場合の取扱いが課題となります。定期受診の際に医療費負担が発生しますので、社会制度面からのサポートがあればと思います。

影山 私はインフラ面での課題が気になります。本治験に限らず、近年アフェレーシスが必要な臨床研究や治療が少しずつ増えています。将来、JB-101の治療を受けられる患者さんが増えたら、当院でも透析室の数と人員の補充が必要になると思います。

免疫寛容の未来について、期待されることは?

影山 免疫抑制剤服用中に軽い風邪やちょっとした症状で近くの医療機関を受診した場合に対応困難と言われるケースがありますが、免疫寛容の導入により気軽に病院を受診できるような環境になれば、患者さんの助けになるのではないでしょうか。

伊藤 今後、肝移植のみならず、腎移植、肺移植、心移植など全臓器での移植症例数の増加が予想されます。本プロジェクトで免疫寛容が導入できれば、移植医療そのものが変わると思います。

波多野 ちなみに、本科では成人患者さんの移植手術も多く手がけていますが、現在、移植患者さんの高齢化が進み、免疫抑制剤による腎機能の低下や悪性腫瘍の増加が大きな問題になりつつあります。移植患者さんには長期のケアがとても大事で、その意味でも免疫抑制剤を中止できることは本当に夢があり、素晴らしいこと。今回の治験の意義は大変大きいものだと考えています。

プロジェクトチームからの声

●CRC(治験運用の組み立てと院内調整、スケジュール・データ管理、同意説明補助などの患者さん対応を担当) 
本治験ではアフェレーシスや治験製品の発送・受領に加え、肝移植後のICUでの治験製品投与など、多くの部署のスタッフが関わります。そのため、スタッフ全員が本治験の内容を理解し、逸脱なく安全に遂行するために、事前に多くの打ち合わせが必要でした。投与が無事終了したときは、「やり切った!」という達成感を感じました。


●CRC(治験運用の組み立てと院内調整、スケジュール・データ管理、同意説明補助などの患者さん対応を担当)
治験製品管理者の先生や当院の細胞療法センター(C-RACT)のスタッフの方々のご指摘やサポートもあり、治験製品を無事投与することができました。将来、肝移植後の免疫抑制剤を離脱できる方が増えることを願って、日々CRCとして尽力しております。


●治験事務局・治験製品管理補助担当(院内実施体制構築と維持管理、治験製品受領〜投与までの組み立て)
ドナーとレシピエントが存在する移植医療にアフェレーシスをどのように組み込むか手探りでしたが、CAR-T治験の経験をもとに実施することができました。患者さんとご家族にとって大変な治療に臨まれるなか、治験にもご協力いただけることに頭が下がる思いです。移植後の免疫抑制剤離脱という吉報につなげられるよう尽力して参ります。

<プロフィール> 
中央:
波多野 悦朗 先生
京都大学大学院医学研究科
肝胆膵・移植外科学 教授

向かって右:
伊藤 孝司 先生
京都大学大学院医学研究科
肝胆膵・移植外科学 講師

向かって左:
影山 詔一 先生
京都大学医学部附属病院
肝胆膵・移植外科 特定病院助教

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