JB-101を保険診療化させ、 1日も早く全国の患者さんのもとへ!

2021.06.25

誘導型抑制性T細胞(以下、JB-101)を使った免疫寛容を目指す肝移植において画期的な医師主導治験。1例目の長崎大学病院に続き2例目の患者さんの治験を実施したのが、東京女子医科大学病院です。同院のプロジェクトリーダーで本治験のスーパーバイザーも務める世界的名医の江川裕人教授に、本治験の手応えと今後の課題を伺いました。

「ぜひとも免疫寛容の治療を受けたい」患者さんのご希望から治験が実現

私が東京女子医科大学消化器病センターに着任したのは2011年のことです。以来、「限りなく100%に近い診療を実現したい」という考えのもと、当センターでは「完璧な手術・完璧な術前術後管理」を目指して年間10~15例の肝移植手術を行ってきました。本治験に限らず、移植手術に携わるスタッフは普段はそれぞれ独立した部門に所属しており、手術のたびに求められる機能を持つグループが集ってプロジェクトチームを結成しています。スタッフが所属する部門は、移植手術を実行する手術部門、細胞治療に関わる細胞治療部門、全体をマネジメントするCRC部門など。手術部門には、外科だけでなく、麻酔科やリハビリテーション科などが関わっていますし、免疫モニタリングを担当する検査部も非常に重要な役割を担っています。携わる人数はかなりの大所帯で、各部門に熟達のスタッフが在籍しています。

約40の診療科を擁する東京女子医科大学病院。なかでも消化器病センターは世界的名医がいることで知られています。

当センターと本治験との関わりは、JB-101の生みの親である順天堂大学・奥村先生とのご縁に遡ります。実は奥村先生と私は高校の同窓生なのですが、年齢が離れていることもあり、面識はありませんでした。ところがある年、私が急遽引き受けることになった同窓会での講演で移植医療についてお話したところ、後日奥村先生からお手紙をいただいたのです。そこから交流が始まり、その後、北海道大学での先行研究を本格的な治験へ進める際、「この治療法を保険診療にまで一般化させたい。ぜひ東京女子医大でも協力してほしい」と大変嬉しいお言葉をいただき、喜んでお引き受けしました。さらに、私は一般社団法人日本移植学会の理事長でもあることから学会を挙げての協力をお約束し、本治験のスーパーバイザーも務めることになりました。


このように当センターがこのプロジェクトに携わるのはごく自然な流れでしたが、やはり治験を実施するには患者さんとのご縁が欠かせません。幸いにも2例目の治験を実施することができたのは「免疫寛容の治療を受けたい」というお申し出が当の患者さんからあったためです。患者さんは50代の方で肝硬変を患っておられ、親族からの生体肝移植を希望されていました。ご自身でも病気のことを大変勉強されており、その過程で本治験をお知りになったようです。患者さんはすでに退院されていて、先日も外来へいらっしゃいましたが、大変お元気なご様子でした。

免疫寛容のプロジェクトチームは大所帯。写真のメンバー以外にも必要に応じて各部門からスタッフが参画します。

一般的な移植医療が量産車なら本治験は高性能のスーパーカー

この免疫寛容プロジェクトは世界初の細胞療法を日常診療にまで広めるための取り組みであり、保険診療まで見据えて治験を行っているのは日本だけです。海外で同様のプロジェクトを進行させている国もありますがまだ実験段階で、広く人々に提供するところまで考えている国はおそらくないでしょう。このような先進的な取り組みに参加できることを、私も当センターのスタッフも誇りに感じ、モチベーション高く取り組んでいます。

もちろん、私にとっても当センターにとっても初めて行う治療法ですので、あらゆることを何度も確認して移植手術に臨みました。これまで私はおよそ1,300例の肝移植に携わってきましたが、本治験は新しい治療法を開発するためのものですから、これまでの治療法では使わない薬を使う必要があります。理論上だけでなく自分の目で見て安全性を確認し、患者さんに確信を持って「大丈夫」とお伝えしたい。例えるなら、一般的な移植手術は量産車で、本治験はスーパーカーのようなもの。初めてスーパーカーに乗るときには誰しも緊張しますし、慣れるまでは怖さもあるものです。ただ、この薬以外は慣れた工程が多く、とくに手技に関しては当センターには細胞治療のエキスパートがいますので、大きな安心感があります。

今後、この細胞療法を全国に届けるためには、クオリティの高い細胞製品を順天堂大学から供給し続けてもらう必要があります。現時点の製品チェックでは予定どおりのクオリティを確保できていますので、これを安全に全国へ届けるシステムを作り上げていただきたい。最終的に多くの患者さんが免疫抑制剤から離脱できる日がそう遠くないことを信じています。

江川 裕人 教授
東京女子医科大学
消化器病センター 消化器・一般外科

1992年、米国カリフォルニアパシフィックメディカルセンター移植外科留学。2002年京都大学移植免疫医学講座准教授。2011年より現職。

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