免疫抑制剤による合併症を防ぎたい。
長期的メリットを見据えて治験に参加。

2021.03.31

順天堂大学の研究グループが2020年9月に開始した「生体肝移植における誘導型抑制性T細胞(JB-101)による免疫寛容誘導能及び安全性を評価する第I/II相臨床試験」において、1例目の患者さんの手術・治療が治験協力施設の長崎大学病院において実施されました。同院プロジェクトチームのリーダーを務める江口晋教授に、治験の様子や今後の展望を伺いました。

患者さんのよりよい生活のため、移植医療の発展のために。

私たち長崎大学病院には、300例を超える肝移植の実績があります。しかし、術後に免疫抑制剤を飲み続けることでの発がんや腎機能障害のデータがあり、「できれば免疫抑制剤の投与量を減らしたい」という想いを持ち続けてきました。


そこで2019年3月、順天堂大学の内田浩一郎准教授が参加されていた今回の治験のコンセプトとなる北海道大学の臨床研究に参画した経緯がありました。北海道大学の研究では患者さんに投与する細胞製品を当院で培養しなくてはなりませんでしたが、今回の治験では順天堂大学が治験製品(以下、JB-101)の製造を行うことで、クオリティコントロールの面で負担が少なくすみました。ただし、術前にドナーと患者さんの両者からアフェレーシス法で末梢血単核球を採取しなくてはなりませんし、JB-101を投与する前処置として、体内リンパ球を一時的に減少させる目的でシクロホスファミドを投与しなくてはなりません。その後、規定の期間を空けてJB-101を投与するので、一般的な肝移植にはないルーティンが多く加わるため、私たちプロジェクトチームもより慎重に治療に当たりました。

長崎大学病院は1861年に養生所として開設された歴史を持つ、長崎県内で唯一の大学病院です。

本プロジェクトの1例目の患者さんは、長崎県内にお住まいの50代の男性です。ウイルス性肝硬変に肝がんを併発され、他に治療法がないことから息子さんからの生体肝移植を選ばれました。


術後に免疫抑制剤を飲み続けると肝がんが再発する恐れが高まることから、本治験のご説明をしたところ、「がん再発の可能性が低くなるなら」と快諾していただけました。


ちなみに県内の大学病院は当院だけで、移植が必要な患者さんの情報は自然に当院に集約されるため、本治験のお話ができた経緯があります。私たちも北海道大学の先行臨床研究の経験で一連の細胞療法のイメージが湧きやすく、治験コーディネーターや看護師の協力を得やすい状況でもありました。


まだ50代とお若い方ですので、この治験に参加することにより免疫抑制剤からの離脱が実現できたら、生活の質を高く保ち、今後の生活を謳歌されることも充分に可能です。患者さんのためにも、JB-101が免疫寛容を誘導することを期待しています。

約20名のスタッフが集結したプロジェクトチーム。肝移植の経験豊かなスタッフばかりです。

順天堂大学から細胞製品が届くプロトコル
順天堂のブランド力に大きな安心感がありました。

移植以外の治療法がない患者さんにとって、肝移植は起死回生の治療法です。しかし、とくに成人の場合は免疫抑制剤が必要で、その長期的な合併症から患者さんを守りたいという想いで今回の治験にも参加させていただいています。JB-101を用いた細胞療法は再生医療の新たな可能性を拓くもので、こうした細胞治療が日常診療に利用できたら、移植医療も大きく発展することでしょう。


1例目の患者さんはすでに退院されており、今後は免疫抑制剤を徐々に減量し、1年半後の免疫寛容を目指していく予定です。免疫抑制剤からの完全離脱を見守るには長い道のりが必要で、この細胞療法による恩恵は5年先、10年先の人生を楽しんでいただけることかもしれません。今後も適応する患者さんからご希望があれば、私たちは責任を持ってJB-101をお届けしたいと考えています。


また、治験の主管を務める順天堂大学とのタイアップにも感謝しています。今後、この細胞療法が実用化されたとしても、JB-101を各病院で培養することは現実的には難しいでしょう。本治験では順天堂大学から安全性信頼性に優れた細胞が届けられることに非常に安心感がありましたし、このかたちは今後の再生医療のモデルとなり得るとも思いました。さらにいえば、順天堂のブランド力が本治験にもよい影響を与えているように感じます。なんといっても私立大学医学部では国内トップクラスですし、奥村先生・内田先生はもちろん、スタッフのみなさんを含めてハイレベルなお仕事をされていることを私も実感しました。今後もよい信頼関係を保ち、ともに移植医療の発展に貢献していきたいです。

江口晋教授:
1992年長崎大学第二外科入局。
2005年長崎大学移植・消化器外科助教。
2012年より現職。

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