世界初の免疫モニタリング法で本治験に貢献したい。

2021.09.14

広島大学病院は免疫モニタリング法「CFSE-MLR」を世界で初めて開発し、全ての移植患者さんに実施する医療施設。移植チームを率いる大段秀樹教授は、免疫細胞治療の第一人者でもあります。肝移植において誘導型抑制性T細胞(JB-101)を使った免疫寛容を目指す医師主導治験の協力施設として、同院が果たす役割を語っていただきました。

特に肝移植において、免疫寛容が切望される理由とは

免疫抑制剤は拒絶反応のみならず、他の反応に対しても免疫を抑制し、さまざまな合併症を招く恐れがあります。ところが肝移植に限っては、ごく稀に抑制剤を止めても問題が起きない患者さんがいらっしゃいます。ならば、もうひと押し治療を工夫すれば、免疫抑制剤がいらなくなるのではないか。こうした考えから多くの研究が進んでいます。数ある肝移植の免疫寛容の研究の中でも、本治験はかなり期待できるプロトコルだと私は思います。
 また、肝移植が他の臓器移植と異なるのは、対象疾患にがんが含まれることです。肝臓に限っては、ある一定の領域を超えなければがん再発の可能性が低いためですが、それでも数%から十数%の方に再発が起きてしまいます。このとき、免疫抑制剤を使用していると、再発率が高かったり、再発スピードが速いなどのデメリットが生じます。そのため、がんを対象とする移植医療では、移植後に免疫抑制剤を不要にすることがとりわけ重要です。

各領域のエキスパートが集う広島大学病院

当院が協力施設となったのは独自の免疫モニタリング法を実施しているためで、先行研究をされていた北海道大学の藤堂先生から「本治験の中に免疫モニタリングの役割で入ってもらいたい」とお声がけをいただいたことが始まりでした。さらに、本治験が順天堂大学・奥村先生のプロジェクトでもあることも大きな理由です。奥村先生は臨床にフィードバックできる免疫学を追究される免疫学者として、私が研修医だった頃からあこがれの存在でした。本治験に関しても当初から先生の論文を拝読しており、藤堂先生からお声がけをいただいたときは大変光栄に感じました。加えて、私は一般社団法人日本移植学会のトランスレーショナルリサーチ委員会の委員長を務めており、学会を挙げて本治験を支援することが決まってからは学会側の窓口を務めさせていただいているという経緯もありました。

臨床と研究をバランスよく両立する消化器・移植外科メンバー
(肝胆膵・移植外科チーム)

安全かつ有用な免疫モニタリング法「CFSE-MLR」を全国へ普及させたい

当院で行っている免疫モニタリング法「CFSE-MLR」は、リンパ球混合試験に代わるものです。古くからあるリンパ球混合試験は患者さんのリンパ球とドナーのリンパ球を試験管の中で培養する古典的な方法ですが、その的中率の高さにおいて群を抜いていました。ところが、生きたリンパ球を培養するには手間がかかりますし、反応を見るために放射線同位元素を使う必要があり、取り扱いに注意が必要でした。そこで私たちが考案したのが、人体に影響のない色素CFSEで細胞を染色して観察し、どんな細胞がどれだけ分裂したかを定量化できる方法です。患者さんの免疫力は一人ひとり異なり、免疫抑制剤の適正な投与量も人それぞれです。これまでは血中濃度によって投与量を決めていましたが、CFSE-MLRを利用すれば患者さんお一人おひとりの免疫力に応じて投与量を決めることができます。当院では2000年からCFSE-MLRの基礎研究を始め、2005年頃から臨床でも使うようになり、10年ほど前から全ての移植患者さんに行っています。大変有用な方法ですので少しでも早く全国へ普及させたいと、本治験にも参加させていただきました。

生体肝移植は1989年に国内初の手術が行われて以来、症例数が積み重ねられ、今では1年生存率が90%を超えています。かなり安定した医療になってきたと言えますし、それは同時に生命予後が長くなることを意味します。免疫抑制剤から解放されれば患者さんの合併症はかなり改善することが見込まれ、とりわけ予後が長い若い患者さんには素晴らしいプロトコルであり、朗報であると思います。

さらに、この治療法は一時的な減量プロトコルを経験すれば、その後は免疫抑制剤から解放されます。COVID-19のような感染症にも一般の方々と同様のワクチン効果が期待できるため、ますます注目を集めるのではないでしょうか。
免疫抑制剤からの解放は臓器移植にとって目指すべき理想です。本治験はかなり臨床での実現の可能性の高いプロジェクトであり、安全性の面でも患者さんには挑戦していただいて良い治療法だとお伝えしたいです。

広島大学 大学院医系科学研究科
消化器・移植外科学

大段 秀樹 教授

1988年広島大学医学部卒業。県立広島病院、国立循環器病センター、ハーバード大学留学等を経て、2008年より現職。

関連する記事

コラムTOPへ戻る