内田先生コラムVol.001

2020.10.30

2021年度の外科学会の企画に「外科医が行う基礎研究の意義」というテーマのシンポジウムがあった。今年の4月から3人の外科医がいったんメスをおき、大学院生として私の研究室に4年間の国内留学に来ているが、まさに毎日彼らが自問自答すべく悩んでいる課題であると思う。なぜ彼らは外科医として成長著しいその若い時期に、研究に集中できる環境を選んだのか、自らが行う基礎研究にどんな意義を期待して留学してきたのか、私自身責任を感じながらも個人的に非常に興味がある。外科医らしさ、自分らしい研究とは何かを考えるいいタイミングでもあると思う。

恩師の奥村先生は、「自分の研究テーマは自分で見つける、解明したいと心底思う課題だけやりなさい、なるべく大きな問題を選びなさい」といつも言われる。彼らはその期待や愛情にも応えようと躍起になり、初めの半年はいろんな研究テーマに積極的に挑戦した。しかし経過してもなかなか自らのオリジナル性のある研究テーマはなかなか見つからない。彼らをサポートする家族にとっても、せっかく東京までついてきたのだから、本人が納得する研究をしてほしいという“支えるかたち”もありそうだ。にっちもさっちもいかない 八方塞がり状態に陥った彼らは自信を失い、ため息も多くなっていた。不思議なことに、最近になって「無知の知」だと、開き直ってきた感がある。長くかかったが、やっと基礎研究のスタートラインに立てたような気がする。研究者にとって、人生をかけて真剣に打ち込める研究テーマを見つけることほど難しい課題はないのだと思う。個人的には毎日真摯に研究に向かう姿勢で進めていくと、研究に対しての自分らしさや感性が磨かれ自然と今やっている研究課題が自分らしいものといえる時が多いと思う。 

最後に、ある日本を代表する外科の教授が “外科医が行うサイエンスの在り方” を奥村先生に質問したエピソードを伝えたい。「○○くん、サイエンスは一つ、東京メトロやJRのように、新しい路線ができたりするが、必ず繋がっているものだ。それを私たちはやっている」禅問答のように聞こえるが、先生のように大きな視野を持って、毎日の研究の一歩一歩を楽しむ余裕があるといいなぁと感じている。

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