免疫寛容プロジェクトは、移植後の患者さんにもっと自由な生活を、免疫抑制剤を必要としない未来を届けたいという医師の願いからスタートしました。
臓器移植は、従来の方法では治療することが出来ない臓器不全に対する究極の治療法として普及してきました。移植医療の発展は、拒絶反応を抑える免疫抑制剤に支えられてきました。しかし同時に、生涯服用する免疫抑制剤の副作用は大きな問題となっています。ウイルス等への感染が起こりやすくなる他、長期間の服用に伴い癌の再発、心疾患や腎機能などへの影響も報告されています。そのため、移植後も患者さんの生活は、多くの制限を受けてしまいます。
本プロジェクトでは、免疫抑制剤にかわり、移植された臓器に対する免疫反応だけを特異的に抑える細胞製品の開発を目指しています。この細胞製品により、臓器移植を受ける患者さんの移植後の生活にたくさんの笑顔をお届けできることを願っています。
免疫反応は、感染症などから身を守る大切な反応ですが、自分の体の中に自分以外の存在を許さない、実はとてもわがままな反応です。 免疫細胞は体内に入ってきた異物を認識すると、たとえそれが体に必要なものであっても、そこに存在する理由などおかまいなしに攻撃します。移植された臓器は患者さんにとってとても大切なものですが、非常に大きな異物として激しい免疫反応(拒絶反応)を起こしてしまいます。しかし、一部の移植を受けた患者さんでは、免疫抑制剤の服用を止めても拒絶反応が起こっていないことが知られています。わがままな免疫細胞達が大きな異物のはずの他者の臓器が体内に存在することを許している状態は免疫寛容(トレランス)と呼ばれています。
私たちは、そのトレランスのメカニズム解明と、その過程で発見された、人為的に移植臓器に対するトレランスを誘導する治療法の開発を行っています。
免疫寛容の仕組みについてもっとくわしく!
STEP1
基礎研究
誘導型抑制性T細胞の培養技術を開発 動物や細胞を用いた検討
STEP2
臨床研究
患者さんを対象とした効果・安全性の検討
STEP3
医師主導治験
患者さんを対象とした効果・安全性の検討を、国が定めたより厳しい規準下で実施中
(現在実施中の医師主導治験の対象:生体肝移植を受ける患者さん)
STEP4
国の承認
治験で得られたデータを国に提出し、承認を得ます
承認後は通常診療としてこの治療を多くの医療機関で受けられるようになります。
(STEP3の対象患者さんと同じ疾患の方のみです)
※臓器移植法が整備され移植医療は普及しつつありますが、脳死ドナーからの提供臓器は常に不足しており、特に肝臓・腎臓の移植については、患者さんのご家族から臓器の一部の提供を受ける生体移植の件数が脳死移植の件数を上回っています。今回の治験では、生体肝移植を受ける患者さんにご協力をお願いしています。今後は、他の疾患の患者さんを対象とした治験も実施する予定です。
製品化までの取り組みをもっとくわしく!
免疫は、病原体などから身体を守る大切なメカニズムです。しかし、免疫系が自己の細胞を異物とみなし過剰な反応を起こしてしまうことがあります。これが関節リウマチ、1型糖尿病、潰瘍性大腸炎などの自己免疫疾患です。一方で、反応する必要の無い異物に過剰に反応すると、食物アレルギーなどの、アレルギー疾患になります。
本プロジェクトの始まりは、1970年代に現免疫治療研究センター長の奥村先生とその師で当時既に著名な免疫学者であった故・多田富雄先生が、B細胞の抗体産生を抑制し免疫反応を終息させるT細胞の概念を提唱し、それをサプレッサーT細胞と呼んだことに遡ります。この免疫反応を終息させるT細胞の機能不全が自己免疫疾患の原因であり、そのメカニズムを解明できれば治療法の開発につながるのではないか。そして最も強い免疫反応である移植臓器への拒絶反応もこのサプレッサーT細胞で抑えることができるのではないか。
この免疫を抑制するシステムの研究は多くの研究者により続けられ、制御性T細胞と呼ばれる細胞が発見され注目を集めています。
本プロジェクトでは、抗CD80/86抗体を用いた、制御性T細胞を含む誘導型抑制性T細胞の製造方法を確立し、臨床応用を目指しています。
誘導型抑制性T細胞と抑制性免疫記憶の関連、トレランスの誘導メカニズムについて研究しています。現在治験に参加いただいている生体肝移植を受ける患者さんだけではなく、他の臓器移植や脳死・死後移植を受ける患者さんにもこの治療法が応用できるか、また臓器移植のみならず、自己免疫疾患やアレルギー疾患などへもこの治療法が応用できるかも研究しています。
製品の製造とその品質チェックを担当する他、製品の効果をモニタリングする、リンパ球混合試験の確立を目指しています。
誘導型抑制性T細胞の製造とその品質チェックを担当しています。温度管理などが難しい生きた細胞から作られるこの製品を、安定した品質で全国の患者さんに届けられるよう製造や輸送過程の改良も目指しています。また、製品の効果をモニタリングする、B細胞を用いたリンパ球混合試験法の確立するための研究も行っています。
誘導型抑制性T細胞の薬事承認を目指し、治験・臨床研究を実施しています。
他大学病院で実施いただいている、患者さんを対象とした治験・臨床研究の代表機関として、研究計画を立案するとともに、製造チームと実施施設の調整やデータ収集状況の管理、当局対応などを担当しています。
研究者たちの取り組みをご紹介!
学会発表 |
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論文 |
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現在、これから生体肝移植を受ける患者さんを対象とした治験を実施中ですが、並行して下記の患者さんを対象とした研究も進めていきます。
・他の臓器の生体移植を受ける患者さん
・肝臓やその他の臓器の脳死/死後移植を受ける患者さん
・過去に臓器移植を受け、現在服用中の免疫抑制剤の副作用が問題となっている患者さん
・移植を受ける小児の患者さん
また、自己免疫疾患などへの臨床応用についても研究を進めています。